「漢方の臨床」投稿記事です。
46歳男性
【主訴】インプラント術後の痛みが止まらない
【既往歴】交通事故による頸椎捻挫
【現病歴】インプラントの手術をしてから右下の顎周辺の痛みが止まらない
【検査所見】インプラント周囲にやや炎症あるが、それほど痛みの原因になるとは思えない程度。
【経過】2週間前にインプラント。抗生物質と鎮痛剤を服用、周囲の洗浄を続けるも痛みが取れない
気診で拝見すると、肩こり++、胸脇苦満(右季肋部)++ 瘀血++
漢方はツムラ小柴胡湯1/2包5日分、ツムラ桂枝茯苓丸1包×14日分
合わせて養生指導。顎マッサージ、鎖骨下マッサージ、そけい部マッサージ。
2回目 11月2日 痛みが変わらないとのこと。右季肋部の気の異常反応が取れていないため、怒っていないか尋ねると、痛みが止まらずとてもイライラしているとのこと。そのことが気の巡りを悪くしていることを伝えると、その場でご自身で肩の力が抜けたことに気付く。イライラするのを止めると約束して帰られた。漢方は同様に投薬
3回目 11月9日 痛みが減った。漢方は桂枝茯苓丸のみを投薬。その後消失
【考察】
口腔内の所見では、ひどい痛みが出るような状態には見えなかったのですが、ご本人の自覚としてはかなり痛みが強そうでした。小柴胡湯には口苦や口中不快感といった症状があるので、口腔内の症状にも効果があるものではないでしょうか。
小柴胡湯は、柴胡、黄芩、人参、甘草、半夏、生姜、大棗
本方証の病位は胸脇であり、少陽病の表す症候ははなはだ多い。胸脇心下の鬱熱を解する柴胡・黄芩に、心下痞硬を治す人参、水飲を和し嘔を治す半夏・生姜、胃部を温め補う生姜・大棗(甘草)が配されている。
要するに胸脇苦満、つまり自覚的には季肋部の痞塞感、他覚的には按圧に対する抵抗感を治する君薬が、柴胡・黄芩のペアであり、胸脇苦満を除けば往来寒熱、心煩、喜嘔その他の症状は和解されるのである。和解とは中和して解するのではなく、奥田謙蔵先生の名言によれば「病邪を潜かに消し黙して奪う方剤」であると、田畑先生の「傷寒論の謎」にありました。肝気鬱血が改善して痛みが改善したと思われます。
また小柴胡湯には黄芩、補中益気湯には升麻と清熱の生薬が入っていて効果があったので、どちらも口腔内の炎症が存在していたと考えられます。
さらに手術による瘀血も関係があり、駆瘀血薬の桂枝茯苓丸が必要かと思われます。
最後に、歯科治療自体がかなりストレスがかかる上、歯の痛みは眠りも妨げるほどのこともあり、精神的にもイライラしやすい状態になります。肝の反応は五行では怒り。イライラがさらなる悪循環を招き、ますます肝の気の流れが悪くなり治りにくくなると思われます。初回にそのことをお伝えせずに痛みが続いたものと思っています。そのことを自覚して頂くことによって、気の巡りがよくなり改善の方向にいきやすくなると考えています。