(アメリカ アリゾナ州 セドナの空 By S.T)
わたしは、3年後にはすっかり「普通の人」に戻っていました。復調を確信したのは、ある夕方の電車内での出来事です。
乗車したときにはそれほど混雑していなかった車内が、だんだんと混みあってきました。具合の悪いときは、つり革に捕まって立つのも一苦労だったので、ラッシュアワーに電車にのることは滅多になかったのですが、そのことに注意を払っていない自分にふと気づきました。そして首尾よく杖をついた女性が乗り込んできました。
「どうぞ座ってください」と、つい、口をついて出てしまいました。
普通に考えれば当たり前の行為ですが、席が必要な人に譲れることに、妙に感動してしまったのを覚えています。一度健康を損なっていたからこそ味わえる感覚でした。そしてわたしはこうも考えました。
「そうか、気診に出会うために体調が悪くなったんだ~」と。
さて、わたしが患者の立場から抜け出したころ、左羅先生は、気診を広げるためにさまざまなイベントに出かけていました。わたしはできるだけそれに参加し、「手伝い」の名目をつけて、左羅先生にくっついて歩いていました(笑)。先生の講演は何度聞いても楽しく、参加者のみなさんを引き付けます。
いまでは、たくさんの患者さんを助け、気診を学ぶわたしたちにすっかり頼られている小倉先生ですが、初めからそうだったわけではありません。気診を広めることに努め、漢方の勉強に勤しみ、現代医学一辺倒の人などから心無い言葉をもらってもくじけずに前を向いてきました。
H鍼灸師が言った「スゴい人」というのは、この行動力と折れない心、つねに笑顔を絶やさない人柄に対する賞賛であったのかもしれません。
(つづく)