平成24年9月から「漢方の臨床」という雑誌に無門塾治験雑録という形で投稿させて頂いています。漢方との出会いからこれまでの症例がまとめてありますのでこちらでも連載してみたいと思います。
漢方との出会い
4年前(平成20年)私は歯科医院での勤務を辞め、ライフワークとして続けてきました気診を広めるべく、気診健康センターを立ち上げました。二足の草鞋では本気で広めることはできないと格好いいことを思っておりました。気診という言葉など全く誰も知らない頃。始めたはいいものの・・・。
「気診で元気!」(幻冬舎ルネッサンス)という本を自費出版で作り、気に興味のありそうなお医者さんや研究所、大学などにお送りさせて頂きましたが、梨のつぶて。唯お一人お葉書でお返事を下さったのは、今は亡き筑紫哲也さんでした。当時ガンを患い、テレビでもお顔を見なくなっていました。ジャーナリストの鏡!!何だかわからないものでも興味を持って下さるのだと、心から感動したものでした。そのお葉書は今も私の心の支えの宝物です。
さて格好よく始めたのはいいけれど、スタートから約10カ月。私の心も身体もお金ももう限界を迎えておりました。だるい、動けない、身体に蛇が巻きついているような感覚、目を開けていられない、食べられない、心がざわざわるする、便秘・・・。当時、ちょうどタレントの飯島愛ちゃんが一人で亡くなっていたのが発見された時で、私も翌日、目覚めなかったら誰がいつ見つけてくれるのだろう?「カミさまどうかたすけて下さい」毎日そう願っておりました。気を伝えるなんてとてもできない状態でした。一気に行動を起こしてエネルギーが枯渇してしまった上、思うようにいかないストレスに押しつぶされたようでした。
1年で気診健康センターは閉め、実家に帰り静養することと致しました。ただただ寝ているばかり。時々起きては少しご飯を食べる・・・。両親が元気でいてくれることが本当にありがたかったです。
一か月ほどすると少し元気が出てきたので、東京の自宅と実家を半々位で行き来できるようになりました。そんな時、気診の先輩から頂いた沢山の本の中にあった田畑隆一郎先生の「傷寒論の謎」を手にしました。開いてみると何と難しい・・・。
実は気診でも漢方の気を使うので、いつか体系的に漢方は習ってみたいと考えてはおりました。少しその本を読んでみると、行間が光って見えます。気が出ている?目の錯覚!?何か引き寄せられるものを感じました。
気診健康センターにいらしていたIさんは東洋医学書の出版社にお勤めだったので、彼女に「この先生知っている?」と聞いたら、「わー!田畑先生の本、うちの出版社で作ってますよ!!」
というわけで、二人で田畑先生の元を訪ねることと致しました。
漢方の力
北茨城の田畑先生の薬局はとてもシンプルな作りで温かい場でした。漢方の香りでいっぱいになっています。初めて見る百味箪笥に感動を覚えました。
早速先生に状態をお話ししました。先生からは呼吸法をしてごらんと言われ、息をはく長さを見られて、「それだけできれば大丈夫!」と言われました。 気診の修行が座禅であったので命拾いしたのかもしれません。田畑先生が出してくださった漢方は柴胡桂枝乾姜湯と桂枝茯苓丸加大黄。私にとっては柴胡桂枝乾姜湯は初めての煎じ薬でした。
家に帰って早速、柴胡桂枝乾姜湯を煎じて飲んでみました。身体が芯から温まっていくことを感じます。エネルギーが戻って来た!と思いました。先生からは朝晩と言われたのですが、胃が重くなってしまうので柴胡桂枝乾姜湯を朝、桂枝茯苓丸加大黄を夜に飲んでおりました。確か2月頃だったにも関わらず、すぐに汗がでるようになって身体が温かく軽くなっていきました。蛇に巻かれている感覚も心のざわざわ感もなくなり、便秘も解消されてきました。
柴胡桂枝乾姜湯に関しては田畑先生の「よくわかる金匱要略」源草社に以下のように書いてあります。
治瘧寒多微有熱 或寒不熱、服一剤如神
瘧、寒多く、微(すこ)しく熱有り、或いは但寒して熱せざるを治す
まさに1服で神の如くの効果でした。
約3カ月、柴胡桂枝乾姜湯は必要なくなりました。桂枝茯苓丸加大黄は途中で桂枝茯苓丸に代えて約半年飲みました。漢方のお陰で元気になることができました。漢方が素晴らしいことを身をもって体験しましたので、すぐに田畑先生にお願いして、その春から無門塾に入れて頂き、漢方の勉強をスタートしました。
しかし初回、授業を受けて、これはしまった!と思いました。基礎から体系的にお勉強する授業ではなく、すでに実践で漢方を扱っていらっしゃる先生方の勉強会。初心者の私には全くちんぷんかんぷんです。それから1年はただただじっと座っているだけでした。そこで目標はその日勉強した中からひとつの処方を覚えること。こうして今、4年目、まだまだ難しいですが、臨床で漢方を扱うようになり、ほんの少しずつ先生方のお話が理解できるようになりました。まだまだ漢方、生薬の引き出しは少ないですが、すっかり漢方の魅力にとりつかれています。
(つづく)